ますたーの研究室

英詩を研究している大学院生が、日常に転がるあらゆる「大好き」な物事を気ままに考察・研究するブログです。

夏休みの宿題とメタフィクションー夏の終わりに『ハートキャッチプリキュア!』第28話。

1. 夏の終わりに

9月に入ると急に寒くなり、たまらず不調になりました。季節の変わり目はいつも苦手です。

 

(大学以外の)大半の学校では夏休みも終わり、すっかり空気感が秋になり今年も夏の終わりを迎えたように感じます。自分は夏の終わりの生まれということもあり、この時期は毎年特別な感慨を抱いてしまいます。そこで、しばらくは夏の終わりの余韻に浸りたい投稿を続けようと思います。

 

今日は夏の終わり(夏休みの終わりごろ)に見たくなる回について話します。

 

以前『文学部唯野教授』についてのレビューで「メタフィクション」について紹介しました。「作品世界が虚構であることをあえて示し、読者が持っている現実と虚構の関係に揺さぶりをかける」というのが私なりのメタフィクションの理解です。

 

字面で説明すると「なにそれ、難しそう……」という感じになりますが、具体的に言うと作中で登場人物が「まあこれアニメだし」て言い出しちゃう手法だったりが、代表的なメタフィクションとなります。他には「作中劇」だったり作者が登場人物として現れるだったり、色々なことが考えられるようです。

 

さて、この手法を説明するのに大変わかりやすいのが『ハートキャッチプリキュア』第28話「サバーク史上最大の作戦!夏休みの宿題おわりません!!」です。

 

この回、『ハトプリ』全編を通しても屈指のクオリティを誇る回であり、腹がよじれるほど笑わせてくれる文句なしの神回なのですが、手法的に非常に興味深く面白いものが見られるので、ぜひ分析していきたいと思います。また、夏の終わりにいつも見たくなる季節感あふれるエピソードでもあります。このブログ初の「文学のプリキュアへの実践」です。

 

2. 『ハートキャッチプリキュア!』について

ハートキャッチプリキュア!』は2010年に放映されたプリキュアで、通算7作目、歴代としては5代目のプリキュアとなります。主人公の花咲つぼみキュアブロッサム)と来海えりか(キュアマリン)の友情を軸に物語が語られます。物語の中盤からは明堂院いつき(キュアサンシャイン)も加わり、中盤にかけてはこの3人組の友情が物語のベースとなっていきます(終盤にかけてはもう一人追加され4人体制になります)。

 

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↑3人体制となったときのハトプリ

 

プリキュアは「戦闘アニメ」でもあるため、プリキュアの敵となる組織や悪役・怪物等がいつも登場するのですが、本作では「地球上の全てを砂漠化させる」という思惑を持つ敵組織「砂漠の使徒」が登場し、人々の心に宿る「こころの花」を利用して怪物を作り出します。

 

「こころの花」は本作の世界観の根底をなす重要設定の1つであり、人々の心の中にある個性の象徴としての役割を果たしています。人はそれぞれ自分だけの「こころの花」を有しており、何か心配事を持っていたり、怒り・悲しみ・不安といったような心を弱らせる原因を持っていたりすると、「こころの花」がしおれたり、元気がなくなったりします。「砂漠の使徒」は弱った人の「こころの花」を利用してそれを具体化し、「デザトリアン」という怪物にすることで破壊活動を行います。「こころの花」を奪われてしまうと、本体である人間は半透明の球体の中に閉じ込められてしまいます。デザトリアンはその人の心の負の部分が具体化した存在なので、普段は誰にも言えない本音を大きな声でわめきながら、自らの「こころの花」を枯らしきるまで破壊活動を行います(絶対デザトリアンにされたくないですね……)。

 

「こころの花」が枯れ切ってしまうともう元には戻れなくなってしまうので、プリキュアたちはデザトリアンと戦い、説得したり励ましたりしてなんとか浄化させることで、「砂漠の使徒」から人々の「こころの花」を守ります。

 

もう1つ、本作における重要な設定として「こころの大樹」があります。これは人々の「こころの花」の源となっているものであり、これが無くなると地球はいっきに砂漠と化してしまいます。「砂漠の使徒」は「こころの大樹」の排除を企み、プリキュアたちは「こころの大樹」の防衛を行います。このあたりの設定は「世界樹信仰」の影響を強く受けていると思います。

↑「こころの大樹」は常にどこかよくわからない空中を浮遊しています。

 

大分長くなりましたが、『ハトプリ』は今後もよく登場することになると思うので、その都度説明を加えていくことにします。今日はその中でも夏の終わりに見たくなる第28話を分析していきます。

 

3. シリーズ屈指のギャグ回……と思わせて

『ハトプリ』第28話「サバーク史上最大の作戦!夏休みの宿題おわりません!!」は8月下旬というまさに夏休みの終わりかけの時期に放送されました。

 

内容についてはタイトルの通り夏休みの宿題をめぐるエピソードで、開始からえりかがかっ飛ばしまくります。

 

勉強が得意で成績も優秀、宿題も順調に片づき、夏休み中でも自己管理がしっかりしているつぼみといつきに対し、「夏休みの宿題なんて最終日に片づければいいよ~~!」と宿題もほとんど手をつけておらず、夏休みの不規則な生活で身も心もだらだらになったえりか、と「夏休みの宿題」というアイテム1つで、つぼみ・いつき←→えりかという対比がばっちりと決まります。

 

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↑「夏休みで身も心もだらだらです~……」なえりか

 

「サバーク史上最大の作戦」とあるように、今回のデザトリアンのターゲットになったのは「夏休みの宿題をやっていない多数の子どもたち」です。夏休みの終わりの時期、宿題をやらなければならないことはわかっているが、どうしてもやりたくない。こうして休み終わりの子どもたちは必ず心を弱らせます。コブラージャはそこにつけ込み、大量のデザトリアンを生成しプリキュアに物量作戦を仕掛けてくるのです。

 

コブラージャは大量のデザトリアンに「宿題が嫌なら学校を壊せば良い」と助言し、小学校の破壊へと向かわせます。(ここでマリンが「あの~~よければ中学校も……」となびきかけるのが最高)

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↑「あの~~よければ中学校も……」に対する強烈なツッコミ

 

 

コブラージャは作戦の思惑についてこう語ります。

「これこそ砂漠化の第一歩。子どもたちの怠け心を煽り、大きくさせ、さらに学校を壊し、学ぶ意欲を取り上げる。やがてやる気や未来への夢も希望も沸いてこなくなる。そうなれば、こころの花は枯れ、こころの大樹も終わり、そして世界は砂漠化するのだ!」

後ほど詳しく論じていきますが、本回は基本的にギャグたっぷりで楽しげなテイストで彩られていますが、ところどころにドキッとするような真剣なメッセージを忍ばせてきます。コブラージャの言うことは一つも間違いがなくて「やはり教育って大事ですよね」ということを改めて思わせてくれます。

 

プリキュアたちは当然学校の破壊を阻止するためにデザトリアンと戦うのですが、しっかりと戦えているブロッサムとサンシャインに対し、生活リズムが乱れ、(昼過ぎに食べた)朝食としてアイスクリームしか食べていない夏バテのマリン、とここでも対比が生きてきます。それだけでなく、マリンのみがコブラージャの言うこと(「嫌なら宿題をやらなければいい」など)にいちいち心を惑わされたり、ブロッサムの「思い出して!勉強って本当はとても楽しいってことを!」という説得を「そうかな…?」と否定したり、マリンがいちいち細やかに視聴者の笑いを誘ってくれます。

 

やがてサンシャインに「マリンはそれでいいの…?苦手なことから目をそらして、言い訳して、全力を出し切れない。それでいいの?」と説得(というかガチ説教)され、さすがのマリンも「気合い入れろあたし~~!」と心機一転本気を出します(ここでちゃんと頑張れるのが、「ただのアホの子」で終わらないえりかのいいところですね)。

 

こうして、プリキュアたちの活躍によりデザトリアンは無事浄化されました。作戦が失敗したコブラージャは、画面に張りつき、こう叫びます。

 

「ちっ!だが、夏休みの宿題がある限り、チャンスはある!

まだ宿題をやっていない子どもたちよ!今度はお前たちのところに行くぞ!

 

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はい、これです。今回のハイライト。まさにこれが「メタフィクション」という手法です。要は遠回しに「宿題しろよ!」という教育的メッセージをメタ的に視聴者に発信しているのですが、この演出は非常に印象的だと思います。

 

ようやくメタフィクションに行き着きました(ここまでで大分長い)。

これが、メタフィクションです。

 

4. 『ハトプリ』はいいぞ。

ストーリーの面白さの基準について、私は「ある程度の段階までは超えるべき基準ラインがあって、そこをクリアしてからは加算方式」という風に捉えています(これは個人の主観です)。

 

そこから、演出の面白さや描き方等が加点方式でどんどん上乗せされていき、それが多いといわゆる「神回」となると考えているのですが、この第28話はシリーズ屈指の神回だと思います。 

 

  • 「夏休みの宿題」というアイテムを用いることで、つぼみといつき、えりかの対比がくっきりと描かれ、それを軸に話全体の筋がぶれることなく一貫している。
  • えりかが最初から最後まで余すところなく生き生きと動いている。
  • つぼみ、いつきが唱える「学校は大切である」「勉強は楽しい」という、一歩間違えれば退屈な説教に陥りかねない教育的内容を、適宜えりかが風刺することで全体のバランスを保っている。
  • メタフィクションの手法を用いて、「夏休みの宿題を早くやれ」という子どもたちには耳が痛いメッセージを嫌味なく発信している。

 

 

『ハトプリ』はすごく好きなプリキュアのシリーズで、今後も語りたいことがたくさんあります。またテーマを定めて分析的なアプローチで紹介していきたいと思います。

 

 

ギャグ回として成立しつつも、色々と興味深い工夫が凝らされているのがこの第28話なのです。 

 

夏の終わりのタイミングに、繰り返し観たくなる印象的なエピソードです。